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 我が家の くろじ 


ちゃんす・チッチ・くろじ



  くろじの大冒険 前編 



オイラには想像もつかなかった異変は、突然やって来た。

ある日、外から帰ってきた飯係は、大きなグリーンの包みをもっていた。

オイラは、いつもの様に、まずは、帰ってきたら、オイラに挨拶するのが礼儀だと言う事を教え込もうと側によると、飯係は、オイラに挨拶もせずに、包みを開け始めた。

オイラの折れた尻尾は、膨れあがり警報を鳴らし始めたのに、飯係は、笑っていやがるんだ。

そしてそれを恩着せがましくオイラのために買ってきたって言いやがる。オイラは、恐る恐る近づいてみようとするんだけど、どうも気に食わない。

チャンスとチッチもオイラに買ってきたと言う飯係の言葉を聞いて、奥からやってきた。自分たちの分はないのか、確認にきたんだ。

オイラはそれが何か解らなかったけど、チャンスやチッチは、一目で解ったらしい。そして品定めをしてからチッチは鼻を鳴らして居なくなった。

チャンスは、何かを感じたらしく、考えこんでた。

飯係は、怖気付いているオイラを無理矢理捕まえるとその箱の中に押し込もうとしやがった。

でもオイラの立派なお腹が邪魔してなかなか納まらないのを笑っていやがる!

そうなのだ、飼い猫としてのお出かけマナー、オイラ専用のキャリーバックが用意されたのだった。

それからは、早かった。一ヶ月もしない間に部屋中の物がダンボールに詰められて、部屋がダンボールの基地となった。

オイラはダンボールが楽しかった。ダンボールの山を制覇して頂上に登って下を見下ろすのも、影に隠れて獲物が近づいて来るのを待ち伏せするのも楽しかった。

でも、チャンスだけは、何故か怒っていた。

そしてわざと飯係が大切にしているソファに何度も何度もおそそを繰り返して、飯係が気がついてくれるのをまっていた。

チャンスは、知っていたんだ。でも、オイラは気がつかなかった。

ある日、オイラ専用のキャリーバックに無理矢理押し込められた。

チャンスもチッチもそれぞれのキャリーバックに入れられた。チャンスはそれが大嫌いらしい。チッチは自分のそれが好きみたいだった。

オイラは、そっと見える隙間から外を眺めてこれからどうなるんだろうと考えをめぐらせたが、今までの人生でこんな経験はなかったから皆目見当もつかなかった。

ただ、こんな身動きもできない所に入れられているのは許せなかった。

オイラ達は、それぞれキャリーバックにいれられたまま押し入れにいれられた。外ではたくさんの男の声と足音、飯係の声が騒がしく聞こえていた。

2時間後、男達の足音も声も聞こえなくなってやっと、オイラ達は、押し入れからだされた。

でもそこは別世界だった。部屋には何もなくなっていた。オイラのお気に入りの爪とぎも、ベットも何もかも。あるのは、トイレと水とカリカリだけだった。

ガラーンとした部屋にはオイラ達だけ取り残されて、オイラとうとう飯係と一緒に世の中から捨てられたと思った。

だけどオイラだけは、野良の経験があるから、これからは、オイラがこいつらに、餌の取り方や寝床の見つけ方を教えてやろうと思った。なんせこいつらときたらぬくぬくと暖かい部屋でなまぬるく生きてきやがったんだからな。

最後の晩は淋しかったニャ 

チャンスはいつまでも外を眺めてたし、チッチは隠れる所もないのに隠れてた。

皆、眠れないまま朝がきた。

飯係は、訳がわからないオイラにトイレを押し付けて「しとけ、しとけ」と命令するが、
そうそうしたくもないのに出るわけがない。

諦めた飯係は、またしてもオイラ達をキャリーバックに押し込んだ。今度は、ロープを使って頑丈にふたが開かないように縛りつけた。

チャンスは本気で嫌がっていた。オイラは、ようやく理解することができたんだ。オイラ達はどこかに連れて行かれるらしい ・・・・・・・

オイラは、ここの場所を離れたくなかった。

ここには、オイラの母ちゃんや兄ちゃんがどこかに居るかも知れないんだ。

それに、オイラを助けてくれた事務所の連中がここには、よく遊びにきてくれてたんだ。週末は、朝までビール飲みながら麻雀を皆でやってた。ジャラジャラうるさくてそれが始まるとオイラ、布団に潜り込んで避難してたけど、でもそいつらが遊びに来ると、必ずオイラに挨拶してくれた。

ここがオイラの世界の全部だったんだ。

ここから離れるなんてオイラには、想像もしたくない事だった。でも、オイラ達の抵抗は空しかった。

チャンスは2度とここに戻れない事も、2度と逢えなくなる事も知っていたらしい。必死の抵抗だったんだ、おそそが・・・・ チャンスは飯係の会社の仲間が大好きだったんだ。

旅行用のカートにチャンスとオイラはキャリーケースごと縛りつけられ、タオルで目隠しされた。チッチは、飯係が手に提げて、オイラ達の大移動が始まってしまったんだ。

でも、どこへ行くのかは、飯係からオイラ達に説明はなかった。部屋を出発したとたん、オイラは気が狂い出しそうになった。

チャンスとチッチの悲壮な願いを込めた抗議の声を無視して、飯係は、バスに乗り、電車に乗り、聞いた事もないような騒音の中、オイラ達を連れて歩きまわったんだ。ようやく、少し落ち着いた時、声をかけて来た。

オイラその時、隙間から見た景色は今でもはっきり覚えてるよ。小さな窓から見える景色は、1度も見た事のない高い空だった。まるでオイラ達が空を飛んでいるみたいだった。

オイラは、車の音や、電車の音、行き交う知らない人達の声をずっと怖くて我慢してたけど、この時は正直言ってオシッコがちびりそうになった。

そこは、モノレールの中だったんだ。どこかに逃げて隠れたくても、身動きができないんだ。ただ小さく固くなってるだけで、飯係に文句も言えなかった。

チッチは爪が折れてしまう程キャリーケースの蓋を引っ掻いて開けようとしてた。チャンスは、声が枯れるほど寂しい泣き声をあげ続けていた。

チャンスは、突然、どこかに連れて行かれるのは、これで2度目だそうだ。その度に大好きだった人達と逢えなくなったらしい。

オイラ達は何も贅沢な望みはなかった。

飯係と一緒なら、充分愛してもらって幸せだったけど、何故、大好きな人達と離れたり別れたりしなきゃならないのか理解できなかったからつらかった。

その後の1時間位は、人の足音と話し声の中なんとか、落ち着かせようと声をかけ続ける飯係の声が虚しく響いていた。

チャンスは怒り心頭だったし、チッチは怯えきっていた。

オイラは、何とか少しでも飯係の近くに寄って、飯係の匂いでも嗅いで落ち着こうとしたけど、出来なかった。

その後、オイラ達は、良い匂いのする綺麗なお姉さんの所へ連れて行かれ、体重を量られたり、キャリーケースごと、テープやネットで頑丈にグルグル巻きにされ、2度と出られないんじゃないかと言うほどに厳重な装備をされた。

オイラ、もう終わりかと思ってたのに、今度は何をされるんだろうか不安になっちまったヨ

オイラ達をこんなケースに入れて2度と出られないぐらいした後で、誰か知らない奴らにオイラ達を「よろしくお願いします」って頭下げて、オイラ達には、「良い子でいてね」って言ったきり、飯係は居なくなっちまった。

オイラ小さな頭で一生懸命考えた・・・・オイラ達、飯係にも捨てられたニャ??

それからの3時間は地獄だった。飯係に裏切られたという思いの中、オイラ達はものすごい轟音の中に放置された。

オイラ達は、飯係や他の奴らに比べるとはるかに耳が良い。三半規管というやつが、発達してる。

それなのにものすごい轟音の中、水も飲めないし、オシッコもできない。オイラのプライドは、おそそをゆるさないし、今まで側に感じていた、チャンスやチッチさえ、居るのかいないのか解らないんだ。

孤独だったし、淋しかった。

オイラこんな経験は、初めてだけど耳が変になったんじゃないかって考えた。

体が宙にフワッと浮いたような感じの後に、地面に押し付けられるようなかんじがする。一生懸命、狭いキャリーケースの中で足を踏ん張るんだけど、体があっちいったりこっちいったりする。

それを繰り返すうちに、耳の中が、ワ―ッと変な感じなる。オイラもうだめなんだっておもったヨ

誇りある野良に生れて、なんの因果か、飯係を従える飼い猫として生まれ変わって早1年と半年、ここでオイラの運命も終わりを告げる事を覚悟した。

何度も何度も小さな頭で、飯係に捨てられるような悪いことをオイラは何をしてしまったのか、考えて考えたけど、思いつかなかった。

オイラだけならまだしもチャンスやチッチまでなんて、飯係はそんな奴だったのか考えて
この小さな心が痛んだ。

なんでこんな轟音の中に捨てられたのか・・・・・

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